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武川 和憲Take

2017.08.26

31のたび日記【24/31】りんごとウサヒのまち・山形県朝日町(後編)

【前回のあらすじ】
山形県朝日町の非公式地域PRゆるキャラ『桃色ウサヒ』の中の人、佐藤さんにまちを案内していただき、りんご畑やワイナリー、面白ゲストハウスを訪問した。人口7000人のまちには、他にもたくさんの魅力があるという。

というわけで、山形県朝日町の後編です。
まずは朝日町のみどころから行きましょう。

■ゲストハウス松本亭一農舎
ご覧の通り、豪邸です。右の白い建物は土蔵で、手前には池もあります。表の庭も十分広いですが、裏の庭はまた格別に広く、山の上にあるので、最上川のビューも最高です。ゲストハウスの常識を超えている。
この家はもともと最上川を行き来する舟の管理で財を成したという土地の有力者が建てたもので、同時期にここで農業に関する塾「一農舎」が開かれていたそう。その後時代を下り、昭和期には松本さんという方が住まれており、「松本邸」と呼ばれていたそうです。なので、二つを合わせて松本亭一農舎。「邸」が「亭」なのは何か意味がありそうですが、聞きそびれました。(屋号っていう意味なのかな)
僕が滞在している間に地域の方が何人かふらっと来たりして、今年1月にオープンしたばかりの若い宿なのにすでに地域に馴染んでいる感じでした。

■椹平(くぬぎだいら)棚田
日本の棚田百選にも選ばれている、美しい棚田。
「シャッター押すだけでフォトジェニック」と評されるほど、素人でも簡単に綺麗な写真を撮ることができます。(天気さえよければ、もっときれいに撮れたはず)
斜度が緩く、田んぼ一枚ずつが機械が入れる大きさ、形なので、一般的な棚田よりも管理しやすいらしい。そのうえ、採れるお米は最高ランクの特A。もう非の打ちどころがありません。ちびまる子ちゃんで言うところのはなわくんです。棚田界のはなわくん。
車で簡単にビュースポットまで行くことができ、そこがちょっとした広場になっているので、こんな写真を撮ることもできます。
5テイクぐらい撮って遊びました。

■上郷(かみごう)ダム

日本三大急流のひとつである最上川の水量を調節することを目的の1つにしているダム。連日の大雨によって湖に溜まった水をものすごい勢いで放出していました。普通の声量では会話できないくらいの轟音が響き、大迫力。(こういうのはいくつになっても心が躍る)

■空気神社
(出典:山形県ホームページ)
これ、本殿なんですよ。広い空間にステンレスの板が敷いているのみ。僕もはじめは「…ん?どういうこと?」となりました。神社って、鳥居があって手水舎があって拝殿、本殿があって周りには摂社、末社があってお札とか売ってる社務所があって…というのが一般的ですが、ここには本殿以外なにもありません。なぜかというと、ご神体は『空気』だから。
そもそも神道の始まりは山や川、岩や木などをご神体とした自然崇拝(アニミズム)で、建物などは必要ありませんでした。空気神社は平成2年に創建されたもので、原点回帰とも言えます。
参拝の作法は、二拝、四拍手、仰ぎ、一拝。伊勢神宮や出雲大社などでは二拝、四拍手、一拝が作法ですが、空気神社はこれに『仰ぎ』という動作が入ります。具体的には、空気・自然に感謝しながら両方の手のひらを内側に向け、上にあげて、天を仰ぐ。”元気玉を作るときの悟空のようなポーズ”といえば、80年代生まれの野郎どもには伝わるかと思います。

 

さて。
前後編を通じて、朝日町の魅力を詳しく丁寧に教えてくださった、『桃色ウサヒ』の中の人こと佐藤さんですが、出身は朝日町ではなく、山形の隣の福島県。
もともと山形県内の大学院で地域振興について研究されており、成功する地域おこしのスキームを確立しようと、「あ」から順に県内の自治体に連絡したところ、乗っかってくれたのが朝日町だったのだそう。
思い立ったきっかけは、本屋に並ぶ地域おこし本のタイトルが「奇跡の○○!」だったこと。全国でこれだけまちおこしが必要とされてるのに、奇跡的な確率でしか成功していない現状に危機感を覚え、「地域振興研究者」としてプレーすることにしたそうです。
『桃色ウサヒ』の特徴は”圧倒的な無個性”。普通、ゆるキャラには地域を象徴するものが付属しているものですが(今治のバリィさんや出世大名家康くんなど)、ウサヒの着ぐるみには何も付属しておらず、名前に辛うじて「アサヒ(アサヒ+ウサギ=ウサヒ)」が入っているのみ。そもそも、初代ウサヒは通販で買った量産品です。その理由は驚きの「ピンクのウサギが一番安かったから」。
なぜ地域色を排除したキャラクタにしたのかというと、そのほうが余白が多く、地域の人たちが自ら関わって『桃色ウサヒ』を作っていけるからだそう。実際、地元でのウサヒの認知と人気はかなりのもので、ウサヒが近づくとみんな笑顔になります。

このように、主流を踏襲する(ゆるキャラでまちおこし)と見せかけて、逆を行く(地域色を一切出さない)まちおこしの手法を「非主流地域振興」とネーミングしており、今後も実践されるそうです。ウサヒとともに、これからも大注目の佐藤さんです。

という感じの朝日町のたび。めちゃくちゃ楽しかった。

 

さて。宿の話をしましょう。
松本亭一農舎を押してるからこの日の宿はここじゃないの、と思いきや、違います。
この日の宿は、山形市にある
こめやかたゲストハウス
生粋の山形人の女将さんがほぼひとりで運営している宿。女将さんは現役の農家の娘でもあるので、朝5時から農作業をし、その合間にゲストの受入準備をするのだそう。なんというタフさ。
女将さんはバック一つ持って一人で外国を旅した経験があるそうで、お話しを聞くと「え、それ大丈夫だったの!?」というような危ないところにも平気で行っていたらしい。そういう事もあって、外国人に対する壁がなく、就農研修生として外国人を積極的に受け入れているのだと言われていました。
…というか、就農研修生云々よりも、旦那さんがイギリス人ですしね。言い方悪いですが、遠く離れた国の田舎、それも方言が結構きついところに婿に来たというのは、大変な葛藤を伴ったと思います。山形に来る決断をした旦那さんも、旦那さんを山形に引っ張ってきた女将さんも、まじですごい。ふたりともハートが強すぎる。

この日は電車の乗り継ぎが悪く、昼飯も晩飯も食べてない空腹状態で宿に入りましたが、完全に余裕でした。なんならちょっと笑っていたくらい。なぜなら、すでに茨城県のゲストハウスjiccaで、「農家さんがやっている宿には米も野菜もある」ということを学んでいたから。キッチンスペースにあるお米と野菜を調理して食べていいことを確認すると、大量の野菜炒めと米2合で空腹を満たしました。

食事しながら話をしたのですが、女将さんは農業とゲストハウスの運営をしているし、僕は旅人なので、自然と話題が”これからの時代の働き方について”になりました。女将さんは自身の働き方を「小商い」と表現しており、「月30万円の仕事を1つするより、月1万円に仕事を30個したほうがいい」とおっしゃっていました。”農業”の中にも、小商いがたくさんあるのかもしれません。

 

そんな山形の旅でした。
明日は再び東京に舞い戻ります。

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